マシュマロ気分
 
れんげちゃん、女の子はどんな時でも可愛くなくちゃダメなの。
素敵な男の子から愛されるために、いっぱい努力しましょう。ママはずうっと見守っているから。ねっ。
 
「……で…も…ママ…」
 私には…む……って、なんだ夢?
 テレビがつけっぱなしになってる。そっか。私、ソファーでうたた寝してたんだ。
 今、何時だろ。ええっと、壁にある鳩時計は10時すぎか。パパ、今日も仕事遅くなるのかな。
―― ピポッピポッピンッポーン
 えっチャイムが鳴ってる。誰だろ?こんな時間に。
「はい、はーい。どちら様ですかって、あなた達っ!なんで勝手に入ってるのよ」
「あ…こんばんは。ここは、賢木涼次(サカキ リョウジ)さんのお宅ですか?」
「ええ、そうですけど」
 うちの玄関に、若い男の子が二人並んで立ってるなんてありえないよ。
 ひょっとして、これもさっきの夢の続きなの?
「お前、ばっかじゃねえの。鍵が開いてたぞ。ったく無用心な奴」
 なんなのこいつ!初対面でいきなり失礼な奴ねっ。そりゃ、鍵をかけ忘れてた私が悪かったけどさ…。
 ううん違う。夜遅くに、人の家を訪ねてくるほうが非常識だよ。
「パパならまだ帰ってません。用があるなら連絡してから、また来てくださいね」
 まかせてよ、作り笑顔なら慣れてるもの。もしかしてパパの仕事関係の人達かもしれないし、嫌な奴でも愛想良くしとかなきゃね。
「…なあ駿(スグル)。こいつ、正真正銘のマヌケだ。あーあー先が思いやられるぜ」
「遠矢(トオヤ)、悪く言いすぎだよ。彼女は正直に教えてくれただろ」
 もうっどうして早く帰らないの。やばい、顔の筋肉がひきつってきた。
「ここに突っ立っててもらちがあかねえ。おい上がるぞ」
「ああそうだね、話をするにはまず落ち着かないと。お邪魔します」
 わわっスリッパ出さなきゃ。………んっ?歓迎してどうすんのよ、私っ。
「ばーか。俺達は、邪魔するためにここへ来たんじゃねえだろ」
「でも初めてだから。天井が2階まで吹き抜けになってるんだね。僕達の住んでるマンションよりも、やっぱり大きくて広いな。 照明のかげん?温かくて懐かしい感じがする」
「ふうん、まあまあじゃねえの」
 こらっそれでも誉めてるつもり!私のパパは、有名な建築デザイナーなのよ。この家は私がママのお腹にいた頃、パパが一生懸命に考えて建てた最高傑作品なんだから。
 
「すっげえ疲れたぜ。喉かわいた。何か出せよ」
 こっこいつ、さっきまで私が寝ていたリビングのソファーで、どうして大きな態度で座ってくつろいでるの。ほんとありえない。どうせこれは夢なんだ。今からでも、後ろからスリッパで頭を ひっぱたいてやる。
「台所を借りるけど良い?遠矢、コーヒーでいいだろ」
「ああ、砂糖たっぷりな」
「ふふっ了解。ねえ、カップはこれを使ったらいいのかな」
「え。ううん、それは普段使いのだから。待ってて。こっちの戸棚に入ってるお客様用を出してあげる」
 パパが人を連れて来たら、いつもそうしてるしね。
「ありがとう。でもこっちので大丈夫だよ。ほら、ちょうど3つ揃ってる」
 手際がいいな。あっという間に3人分のコーヒーをいれちゃった。へえ長い指、それに爪の形が男の子なのにすごくきれい。
 って、見惚れてる場合じゃなかった。ナチュラルすぎてなんか調子狂う。
「あなた達、何者?人の家へ勝手に上がりこんで、しかもコーヒーまで飲もうなんてずうずうしい」
 ちょっと最後がおかしかったけど、まっいっか。
「ちっせえ女。コーヒーぐらいでいちいち騒ぐなよ」
 だからそうじゃないってば。ふんぞり返って足を組むなんて、行儀悪いわよ。
「遠矢、熱いから気をつけて」
「んサンキュ、駿」
 もう一人は、礼儀正しくてまともな感じ。
「あれっ?」
 今まで気が動転していて気づかなかったけど、二人とも顔そっくり。しかもクラスの女の子達がきゃあきゃあ言いそうな程、アイドルっぽくてカッコイイじゃん。 威張ってる方は、両耳に黒い石の小さなピアスしてるから見分けがつくけど、それがなかったらどっちかわからないかも。
 うわ、背の分だけ足もかなり長いんだあ。モデルとかやってそう。
「ちっ何だよ。見るなっバカ女」
 くうっむかつく!…その口の悪さで、洞穴の中でもあんただってきっとわかるわ。
 それにしても双子を見るのって初めて。紺ブレに水色の縞ネクタイか、どこの学校の制服かな。うちの高校は学ランだし。 うーん、床に置いた大きなボストンバックの中身も気になるな。
「あつっ」
 よそ見してたから、コーヒー冷まさずに飲んじゃった。
「れんげちゃん、舌を火傷したの?すぐ氷水持ってくるから」
「あっ大丈夫だよ。これくらい平気、平気」
 たしか駿君だっけ、優しいんだなあ。心配そうに見つめられたから、思わずドキドキしちゃった。
「バカれんげなんかほとっけ。女のくせに、駿にコーヒーを用意させたから罰が当たったんだ」
「あんたね!さっきから私のことをバカ女だのバカれんげだ…の……二人ともなんで私の名前知ってるのよ」
「っうぜえ」
 また舌打ちしてる。ああ限界。やっぱ一発グーで殴ってれば良かった。
「お願いだから恐い顔で睨まないで、れんげちゃん。僕が説明するから。遠矢、あとで彼女にきちんと謝るんだよ」
 駿君のためにここは我慢するか。
「俺は何も悪くないぜ」
 こいつ、外見は私と同じ17歳か年上に見えるけど、中身はまだまだ子供じゃない。
「突然おしかけて、びっくりさせちゃったよね。ごめんね。僕の名前は羽柴駿(ハシバ)。彼は兄の遠矢で…」
「ちょっと待って、あんたが兄さんなのっ!?」
「だからなんだ。文句あるのか」
 大ありだよ。普通にこれまでの言動を考えて逆でしょう。まあ、双子だったらあまり関係ないのかもしれないけどさ。
「っと…それで、僕達はもうわかってると思うけど双子なんだ」
 うんうん納得。
「ったく、まどろっこしいぜ。涼次がどうしてもって言うから、協力してやってたけど、めんどくせえ。さっさと先に話ちまえば良かったのによ」
「なんなの、あんた。私のパパを呼び捨てしないでっ」
「れんげちゃん、落ち着いて」
 もう遅い。限界をとっくに通りこして、おかしくもないのに笑いがこみあげてきそうなんだからね。
「二人とも帰ってよっ」
 この際、警察を呼ぶのだけは勘弁してあげるから。
「やだね」
「なっ!ここは私の家よっ」
 顔が熱い。情けないけど、私、本気で怒ったら涙が出るんだった。どうしよう、ここで泣いたら負けのような気がする。
「れんげちゃん…」
 駿君の困った顔。
 あいつは腕組をして、挑戦するような眼差しを向けてくる。ふぬぅっ腹立つ。
「おい、お前…」
「あんたなんか大っ嫌い」
 なななんで急に立ちあがるの。顔がマジじゃん。暴力反対。それ以上、私に近づいたら。
「いやっ!!」
「は、何だ?急に大声だすなよな」
「遠矢、これからは僕達が守ってあげるんだろ。泣かしてどうするの」
 呆れてるのかな、駿君。もう私、何がなんだか訳がわからない。
「まいったぜ。女を相手するのが、こんなにしちめんどくせえと思ってなかった」
「兄貴は日頃から、逃げてばっかりだからだよ。これからはちゃんと誰でも向き合うようにしなきゃ」
「…うるせえぞ、駿」
 二人とも言い争ってるみたいだけど、もうどうでもいいや。
 早くパパ、帰ってきてよ。
「その話は今するべきじゃない。とにかく、れんげちゃんの誤解をすぐにといたほうが良いだろう」
「わあったよ。そういうのはお前の得意分野だろ。ほら、さっさとやれ」
「ふう…発言にたくさん嫌味がまじってる気がするけど」
 わわっ。いきなり何で。
「怖がらせてごめん。安心して。僕達は君を絶対に大切にするから」
 嘘でしょ。私……駿君に抱きしめられてる。
「そうやって背中を叩く姿は、まるで母親がぐずってる赤ん坊をあやしてるみたいだな。れんげ、お前の顔、猿の尻みてえに真っ赤だぜ」
―― ブチッ
「なあ、今なんか変な音がしなかったか?」
 のん気な顔をしてられるのも今のうちよ。
「…どいて駿君」
「とうとう怒らせちゃった。れんげちゃん、なるべく手加減してあげてね」
「なんだよ手加減って…おわっ!!」
 むぅ、避けたわねぇっ。
「ありがとう、支えてくれて」
「どういたしまして。僕は、君の味方だから」
「バカっ、部屋の中で飛び蹴りしたら危ねえだろ。駿が助けなかったら大怪我するところだったぞ。おい、人の話を聞いてるのかって、っと今度は右ストレートかよ」
「卑怯者っ!ちゃんとその場にじっとしてなさい」
 女の子の純情をからかった代償はすっごく大きいんだから。


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